ドストエーフスキイ全作品読む会
疾走するトロイカ
<江川卓訳『カラマーゾフの兄弟』 第12編 誤れる裁判 第6章 検事イッポリートの論告>より
一時代前の偉大な作家(ゴーゴリ)は、その最大の作品(『死せる魂』)の結びで、ロシア全体を未知の目的に向かってひた走る勇壮なロシアのトロイカにたとえて、「ああ、トロイカよ、鳥のようなトロイカよ、おまえを考え出したのは誰か?」と叫び誇らしい感動に包まれて、このいっさんに突っ走るトロイカの前には、万国民がうやうやしく道を開けると付言しています。諸君、それでよいでしょう。道を開けてくれるものなら、うやうやしくであろうと何だろうとかまいません。しかし、卑見によるならば、天才的な芸術家がこのような形で作品を結んだのは、赤子のように無邪気な楽天論の発作にかられたためか、でなければ、たんに当時の検閲を恐れたからにほかなりません。なぜなら、このトロイカの曳馬として、ソバケーヴィチ、ノズドリョフ、チチコフといった彼の作品の主人公たちだけを馬車につけるならば、たとえ、だれを御者につけようと、そのような馬ではまともなところに行きつけるはずはないからです!これらは現代の馬には遠く及ばぬ昔日の駄馬でしかなく、いまの馬はもう少しはましなのであります・・・・・