ドストエフスキーとてんかん/病い


テレビにより引き起こされたドストエフスキーてんかん


Cabrera-Valdivia F  等著 下原康子 訳

論 題:Dostoevsky's epilepsy induced by television.
著 者:F Cabrera-Valdivia, F J Jiménez-Jiménez, J Tejeiro, L Ayuso-Peralta, A Vaquero, and E Garcia-Albea
所 属:Instituut voor Epilepsiebestrijding, Meer en Bosch, De Cruquiushoeve, Postbus 21 2100 AA, Heemstede, The Netherlands
雑誌名:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1996 Dec;61(6):653.

ロシアの文豪ドストエフスキー(1821-81)は特殊な“前兆”を伴うてんかんを患っていた。それは、自らが説明していたように、突然に生じる歓喜、幸福、心地よさの感覚であった。前兆の直後には強直間代発作が続いた。このタイプのてんかんは“エクスタシーてんかん”、あるいは“ドストエフスキーてんかん”と呼ばれてきた
(1-3)。歴史上の人物にも同じタイプのてんかんを指摘されている人物はいる (4,5)。一方で、ドストエフスキーは、自らの経験を小説の登場人物、たとえば『白痴』のムイシュキンらに投影した。

ここに報告するのは25歳の女性である。本人も家族にも神経学的病歴はない。注目すべきは、彼女には、テレビ画面に接近するとエクスタシー感覚が引き起こされるというエピソードが10年前から頻繁にあったことだ。このエピソードは、突然に外部の環境から切り離された状況で始まり、“内なる平和”、平穏、歓喜の感覚と続いた。性的感覚は伴わなかった。彼女は、薬物使用の場合との違いを、海を見ているときの完全に満ち足りた感覚、と表現した。家族は彼女をテレビから遠ざける必要があった。3回のエピソードで、強直間代性発作が続いて起こった。患者は感情的なストレスを感じたときには、一人でテレビの前に座って、このエピソードを容易に引き起こすことができた。番組内容は関係がなかった。神経学的検査では、発作間欠時の脳波、頭部CT、頭部MRIは正常であった。テレビ画面に接近しているとき、脳波の全般棘波と多棘徐波複合が3秒間続いた。その間の彼女の覚醒度はやや低下していた。

われわれの患者のエクスタシーてんかんはドストエフスキーが描いたそれに似ていた。このようなタイプのてんかんの報告自体が非常に稀である
(1-4)。われわれの患者の場合、それがテレビによって引き起こされたこと、そして全般てんかんに移行したという点においてより稀である。過去のエクスタシーてんかんの2例は、一人は右側頭葉に腫瘍があり (3)、もう一人は右側頭葉にてんかん様の活動が見られたものであった(1)

Reference
1.Cirignotta F, Todesco CV, Lugaresi E. Temporal lobe epilepsy with ecstatic seizures (so-called Dostoevsky epilepsy). Epilepsia. 1980 Dec;21(6):705?710. [PubMed]
2.Voskuil PH. The epilepsy of Fyodor Mikhailovitch Dostoevsky (1821-1881). Epilepsia. 1983 Dec;24(6):658?667. [PubMed]
3.Morgan H. Dostoevsky's epilepsy: a case report and comparison. Surg Neurol. 1990 Jun;33(6):413?416. [PubMed]
4.Landsborough D. St Paul and temporal lobe epilepsy. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1987 Jun;50(6):659?664. [PMC free article] [PubMed]
5.Foot-Smith E, Bayne L. Joan of Arc. Epilepsia.1991;32:810-5


J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1996 Dec;61(6):653.