M1 |
O.テムキン「てんかん人の世界」(1945年)★
『てんかんの歴史』第1巻:古代から十八世紀まで
Owsei Temkin 著 和田豊治 訳 中央洋書出版部 1988
著者は医学史研究者。「第13章たおれ病の終焉4:てんかん人の世界」で、広い視野から、ドストエフスキーとマホメットのエクスタシー前兆について、ゾラ『獣人』、ニーチェ『アンチ・キリスト』などを引いて論じている。 |
図書 |
M2 |
『臨床てんかん学 第2版』(1975年)
和田豊治 著 金原出版 1975
第4章-Tの部分てんかんの中のC.感情発作の記述(P.152-155)に、ムイシュキンの“この一瞬のためなら全生涯をささげてもいい!”を含む一文が引用されている。 |
図書 |
M3 |
楽園への旅 (『ニュートンはなぜ人間嫌いになったのか』 第4章)(あらすじ)(1993年)★
Harold L. Klawans 著 加我牧子 等訳 白揚社 1993
「第4章:楽園への旅」(和田清訳)神経内科医である著者とエクスタシー発作のある患者との出会いが語られている。 |
図書 |
M4 |
『臨死体験』
立花隆 著 文藝春秋 1994
ドストエフスキーへの言及は2か所(上119、下383)。いずれも、臨死体験者が語る「至上の境地」とドストエフスキー文学の中に描かれた「永久調和の一瞬」の類似に関連する記述。臨死体験の解釈として「現実体験説」と「脳内現象説」を提示し、46例の臨死体験者の証言を聞き取り、対立する説を代表する研究者の発言を公平に丁寧に取材している。立花氏自身は、基本的には「脳内現象説」の立場で、臨死体験と側頭葉てんかんについて、同じメカニズムで起こる現象と断定はできないまでも、少なくともかなり隣接したところで起きる現象としている。しかし、一方で、実際に体外離脱しなければ見えないものを見てきたという事例のいくつかを本人から直に取材して、「脳内現象説」が正しいとは思っているものの、もしかしたら、現実体験説が正しいかもしれない・・・科学は、まだあまりにもプリミティブな発展段階にあるのだから、とも述べている。立花隆さんは2021年4月30日に亡くなった。「臨死体験」をされただろうか? |
図書 |
M5 |
『知られざる万人の病 てんかん 』
金澤治 著 南山堂 1998 (追記:2006年に第2版刊行)
著者はてんかんの臨床医。「第1部:てんかんだった偉人達の話」でドストエフスキー、シーザー、ジャンヌ・ダルク、フローベール、ゴッホ、マホメットを取り上げている。 |
図書 |
M6 |
『脳のなかの幽霊』(1998年)
原題:Phantoms in the Brain, by V.S.Ramachandran & Sandora Blakeslee
V.S.ラマチャンドラン、サンドラ・ブレイクスリー 著 山下篤子 訳 角川書店 1999
第9章 神と大脳辺縁系
ドストエフスキーの引用はないが、側頭葉の機能不全をともなう驚くべき “神秘的な” シンドロームが紹介されている。 |
図書 |
M7 |
『書きたがる脳 言語と創造性の科学』(2004年)
原題:The Midnight Diseases:The Drive to Write,Writer's Block,and the Creative Brain. by Alice W.Flaherty,2004
アリス・W・フラハティ著 吉田利子訳 ランダムハウス講談社 2006
第1章 ハイパーグラフィア──書きたいという病
ハイパーグラフィアとライターズブロックについて、著者自身が患者としての自らの体験を語る一方で、神経科医としてそれらの現象が起こる脳の状態および精神状態を説明している。文学者への言及が非常に多い。『地下室の手記』が引用されている。 |
図書 |
M8 |
『脳のなかの倫理 : 脳倫理学序説』(2005年)
原題:The Ethical Brain by Michael S Gazzaniga, 2005
マイケル・S.ガザニガ著 梶山あゆみ訳 紀伊國屋書店 2006
第9章 信じたがる脳 側頭葉てんかんと信仰(P.213-220)
分離脳の研究で知られる認知神経科学の第一人者。2001年「大統領生命倫理評議会メンバー」になったことから「脳(神経)倫理学)」を扱った本書が生まれた。「第9章信じたがる脳」の中の「側頭葉てんかんと信仰」の章で、ゲシュヴィント症候群に言及し、ゴッホ、聖パウロ、ムハンマドを引いている。ドストエフスキーにも触れている。 |
図書 |
M9 |
『天才の病態生理 片頭痛・てんかん・天才』(2008年)★
古川哲雄 著 医学評論社 2008
<抜粋>ドストエフキィのてんかん / ペテルブルグの夢
「第2章 てんかん」の大半をドストエフスキーにあてている。『アンナの日記』から発作に言及した箇所を引用し、発作の回数を数え(12回)ている。アンナに宛てた手紙も引用している。作品からは、『白痴』『悪霊』からの引用および言及。「宗教家の天啓」の章で『ペテルブルグの夢ー詩と散文ー』から
“ネヴァ川の幻想” をそのまま引用している。 |
図書 |
M10 |
『死と神秘と夢のボーダーランド 死ぬとき、脳はなにを感じるか』 (2011年) ★
原題:The Spiritual Doorway in the Brain:A neurologist's Search for the God
Experience. by Kevin Nelson,2011
ケヴィン・ネルソン 著 小松淳子 訳 インターシフト 2013
第6章 古代のメトロノーム 恐怖から霊的至福に至るテンポ:ドストエフスキーが受けた啓示
第8章 合一の美と恐怖 神秘の脳の奥深く
臨死体験研究において、レム睡眠と覚醒が混在した“ボーダーランド”が神秘体験をもたらす、という「レム睡眠侵入説」を提唱。死に瀕した人の恐怖感が霊的体験に移行する臨死体験とドストエフスキーがムイシュキンに語らせた、処刑直前の5分間(生涯を貫く信念を与えた至福体験)との類似を指摘している。第8章の抜粋の中の体験談「昇る太陽」と「奈落の底」は『ペテルブルグの夢 ─ 詩と散文 ─』や「イッポリートの告白」などを連想させる。 |
図書 |
M11 |
『見てしまう人々 幻覚の脳科学』(2012) ★
原題:HALLUCINATIONS. by Oliver Sacks, 2012
オリヴァー・サックス 著 太田直子 訳 早川書房 2014
第8章「聖なる」病 第14章 ドッペルゲンガー 自分自身の幻
『レナードの朝』の著者として知られる脳神経科医。第8章:「聖なる」病の章で、ヒューリングス・ジャクソン、ガウアーズ、ペンフィールド、ゲシュウィンドらの研究を引いて、サックスの患者も含めたてんかんに伴う幻覚や予兆の症例を数多く紹介している。Theophile
Alajouanine「ドストエフスキーのてんかん」からドストエフスキーがソーニャ・コワレフスカヤに語った霊的な前兆とムイシュキンの恍惚発作を引用している。第14章:ドッペルゲンガーで、本人とその分身のあいだに相互交流があるホートスコピー(heautoscopy)を紹介している。この極端にまれなかたちの自己像幻視の症例は『分身』のゴリャートキンを連想させる。 |
図書 |
M12 |
『私はすでに死んでいる ゆがんだ<自己>を生み出す脳』(2015)
原題:The Man who wasnt there, by Anil Ananthaswamy,2015
アニル・アナンサスワーミー 著 藤井留美 訳 紀伊國屋書店 2018
著者はアメリカのサイエンスライター。本書は主として神経学の知見をベースに「自己とは何か」を追求している。とりあげた疾患には、コタール症候群、身体完全同一性障害など珍しく突飛な疾患が含まれている。第7章でドッペルゲンガー、第8章で恍惚てんかんをとりあげ、第8章ではムイシュキンを引用している。 |
図書 |
A1 |
Theophile Alajouanine ドストエフスキーのてんかん (1963) ★
論 文 名:Dostoiewski’s epilepsy
掲載雑誌:Brain 86:209-218,1963
フランスの神経科医Alajouanineが神経学会で行った有名な講演。アウラ(エクスタシー前兆)論争の口火となった。てんかんはドストエフスキーにとって、文学のみならず、人生や世界への態度、哲学・思想にまで大きな影響を与えた特別の体験であったことを強調している。 |
論文 |
A2 |
Henri Gastaut ドストエフスキーのてんかん再考 原発全汎てんかん説(1978)概 要 ★
原題「てんかんの症候学およびドストエフスキーの意図しなかった貢献」
Henri Gastaut 著 和田豊治 訳 大日本製薬 1981
論 題:Fyodor Mihailovitch Dostoevsky’s Involuntary Contribution to the Symptomatology
and Prognosis of Epilepsy
掲載誌:Epilepsia 19:186-201,1978
フランスのてんかん研究の大御所アンリ・ガストーのW.G.Lennox賞受賞講演録。詳細な検討によってガストー自身も主張していた従来の側頭葉てんかん説を否定しドストエフスキーのてんかんは原発全般てんかんであったとし、エクスタシーに関しては作家の創作とした。てんかん学におけるドストエフスキーの貢献は「発作をくりかえしても知能の低下は来たさないことを自ら証明してくれたことである」としている。 |
論文 |
A3 |
F.Cirignottaraら エクスタシー発作をともなう側頭葉てんかん(いわゆる ドストエフスキーてんかん)(1980) ★
下原康子 訳
論 題:Temporal Lobe Epiilepsy with Ecstatic Seizures (So-Called Dostoevsky Epilepsy)
著者名:F.Cirignotta,C.V.Todesco,and,E.Laugares
掲載誌:Epilepsia 21:705-710,1980
エクスタシー前兆を初めて脳波で確認し、ドストエフスキーてんかんと名づけた記念すべき論文。 |
論文 |
A4 |
P.H.A.Voskuil ドストエフスキーのてんかん (1983)★
下原康子 訳
論 題:The Epilepsy of Fyodor Mihailovitch Dostoevsky(1821-1881)
掲載誌:Epilepsia 24:658-667,1983. Raven Press, New York
著者はオランダのてんかん学者。残された全発作の記述、頻度、誘因、進行、治療、家族の病歴からドストエフスキーの病歴の構成を試み、部分複雑てんかんの発作が二次的に夜間の全般発作を引き起こしたとする説を提供している。 |
論文 |
A5 |
Henri Gastaut ドストエフスキーのてんかんについての新しい考察 (1984) ★
下原康子 訳
論 題:New comments ofthe epilepsy of Fyodor Dostoevsky.
掲載誌:Epilepsia 25(4):408-411, 1984.
Voskuilの説を受けて発表された。1977の自説で見落としていた症状を再検討した上で、確かに側頭葉の障害はあったが、どちらの型の発作にしろ二次的には同じ帰結をたどることになる全般発作をほとんど即時に引き起こした、とした。ドストエフスキー、フローベール、ゴッホの比較を行っている。
|
論文 |
A6 |
Norman Geshwind ドストエフスキーのてんかん (1984) ★
下原康子 訳
Geschwind N.
Dostoevsky's epilepsy.(PP325-33)In Psychiatric Aspects of Epilepsy,edited
by Dietrich Blumer,
American Psychiatric Press, Washington, D.C., 1984
ゲシュヴィンドはアメリカの行動神経学者。側頭葉てんかんの患者に見られる発作性行動パターン(Geshwind症候群)を発表。この考察に基づいてドストエフスキーの性格特性を分析した。 |
論文 |
A7 |
Howard Morgan ドストエフスキーのてんかん:ある症例との比較 (1990) ★
下原康子 訳 (ドストエーフスキイ全作品を読む会『読書会通信』 2003.12)
論 題:Dostoevsky's Epilepsy: A Case Report and Comparison
掲載誌:Surgical Neurology 1990;33:413-6.
ある症例というのは著者が経験したエクスタシー発作の症状を伴った脳腫瘍の患者のことである。 |
論文 |
A8 |
Peter Bruggerら ホートスコピイ、てんかん、および自殺 (1994)
論 題:Heautoscopy, epilepsy, and suicide
雑誌名:Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry 1994;57:838-839
ドッペルゲンガーで本人とその分身のあいだに相互交流があるホートスコピー(heautoscopy)の患者の症例を報告している。(オリヴァー・サックスが『見てしまう人々 幻覚の脳科学』で引用している)。この極端にまれなかたちの自己像幻視の症例は『分身』のゴリャートキンを連想させる。 |
論文 |
A9 |
F.Cabrera-Valdivia 等 テレビにより引き起こされたドストエフスキーてんかん (1996)
論 題:Dostoevsky's epilepsy induced by television.
雑誌名:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1996 Dec;61(6):653. |
論文 |
A10 |
John C. DeToledo ドストエフスキーのてんかん (2005) ★
−アリバイ工作に使われたスメルジャコフのてんかん発作に関する考察
下原康子 訳(ドストエーフスキイ全作品を読む会 読書会通信 No.88 2005)
論 題:The epilepsy of Fyodor Dostoyevsky: insights from Smerdyakov Karamazov's
use of a malingered seizure as an alibi.
掲載誌:Arch Neurol. 2001 Aug;58(8):1305-6.
「ドストエフスキー自身が、偽発作が時として利用できることに気づいており、死がまじかな最後の小説の中で、スメルジャコフを介してそれを伝えたのかもしれない。そのことは、25年前にすでに“私はあらゆる種類の発作を経験した”と述べていたことを思い起こさせる」と指摘している。 |
論文 |
A11 |
Ivan Iniesta『カラマーゾフの兄弟』を読みなさい (2009)
論 題:Views & Reviews The Brothers Karamazov
掲載誌:BMJ 2009;338:b1999 doi: 10.1136/bmj.b1999 (Published 20 May 2009)
「より良い医者になるために何を読むべきか」に答えている。 |
論文 |
A12 |
Piet.H.A.Voskuil ドストエフスキーの小説におけるてんかん (2013)
下原康子 訳 (ドストエーフスキイ全作品を読む会・ 読書会通信 No.148付録 2015.2)
論 題:Epilepsy in Dostoevsky's novels (1821-1881)
掲載誌:Front Neurol Neurosci. 2013;31:195-214.
ドストエフスキーの5つの作品から13人の人物の発作の場面を引用しコメントを加えている。論文の大半が作品の引用から成り、「ドストエフスキー登場人物のてんかん百科」の様相を呈するユニークな医学論文である。 |
論文 |
A13 |
Ivan Iniesta ドストエフスキーにおけるてんかん (2013)
下原康子 訳 (ドストエーフスキイ全作品を読む会・ 読書会通信 No.149付録 2015.4)
論 題:Epilepsy in Dostoevsky
掲載誌:Progress in Brain Research 205:277-293,2013
後世の神経科医の目を通して、神経学の歴史をふまえこれまでのドストエフスキーのてんかん研究をレビューしている。「ドストエフスキーはシベリア体験を経て、自身の病気を文学作品の中で知的に利用する方法を見出した」と評価している。 |
論文 |
A14 |
Sebastian Dieguez 文学における様々な分身:身体的自己に関する研究における文学の貢献(2013)<部分訳>
論 題:Doubles everywhere: literary contributions to the study of the bodily
self.
掲載誌:Front Neurol Neurosci.2013;31:77-115. doi: 10.1159/000345912. Epub
2013 Mar 5.
ドストエフスキーの『分身』を論じている。 |
論文 |
A15 |
K.B.Bhattacharyya ドストエフスキーとてんかん (2015)
論 題:Fyodor Mikhailovich Dostoyevsky and his epilepsy.
掲載誌:Neurol India 63:476-9. 2015
下原康子 訳
フロイトから現在に至るまでのドストエフスキーのてんかんに関する論文をレビューしている。 |
論文 |
A16 |
James G. Gamble ドストエフスキー、カラマーゾフの兄弟、そして、てんかん(2023)
Cureus. 2023 May; 15(5): e38602.
Dostoevsky, The Brothers Karamazov, and Epilepsy - PMC (nih.gov)
スメルジャコフの心因性の非てんかん発作(PNES)の記述が注目される。
|
論文 |
A17 |
恍惚発作を呈した側頭葉てんかんの一例:いわゆるドストエフスキーてんかんについて (1987) [抄録]
松井 望・内藤 明彦 著 精神医学 29(8):857-864 1987
Naito H,Matsui N. Temporal lobe epilepsy with ictal ecstatic state and
interictal behavior of hypergraphia.J Nerv Mental Dis 1988 Feb;176(2):123-4
日本国内で報告されたエクスタシー発作の症例報告。希少である。 |
論文 |
A18 |
原典・古典の紹介 自己幻視 (2000)
古川哲雄 著 神経内科 53(6):566-571 2000
抜粋 [ドストエフスキィ『分身』]
「文学作品中に見られる自己幻視の代表格はドストエフスキィの『分身』であろう」と述べている。 |
論文 |
A19 |
片頭痛・てんかん・天才 (2006)
古川哲雄 著 神経内科 64(1):81-105 2006
『天才の病態生理 片頭痛・てんかん・天才』のもとになった論文 |
論文 |
A20 |
てんかんからみる人物の横顔 異論異説のてんかん史:ドストエフスキー (2011)
松浦雅人 著 Epilepsy: てんかんの総合学術誌 5(2):151-156 2011
「ドストエフスキーは作品のなかにてんかんのある人物を登場させ、発作前の前駆症状や発作直前の前兆をみごとに表現している」としている。
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論文 |
A21 |
ドストエフスキーのてんかん発作と病的賭博 妻アンナ指揮のポリフォニー (2015)
細川清 著 Epilepsy: てんかんの総合学術誌 9(1):65-70 2015
ヴィリジル・タナズ『ドストエフスキー』とミハイル・バフチン「ドストエフスキーの詩学」が引用されている。 |
論文 |
A22 |
脳科学の視点で読むドストエフスキーとポリフォニー (2022)
虫明元 著 BRAIN and NERVE 73(12):1357-1361 2021
脳科学的にドストエフスキーのてんかんを解釈している。さらに踏み込んでバフチンが提唱する「対話」や「ポリフォニー」に脳科学における現代的意義を見出すことができるとしている。 |
論文 |