Medical Dostoevsky&My Dostoevsky

ドストエーフスキイの会ニュースレター No.61  2003.7

エキサイティング!
−穴見公隆氏「てんかんとドストエフスキー」を聞いて−


ドストエーフスキイの会 第158回例会 日時:2003年5月17日(土)

報告者:穴見公隆氏  題目:ドストエフスキーとてんかん



下原 康子

とてもエキサイティングな報告でした。なにがそんなにエキサイティングだったのか、この際、無知・勘違い・思い込みを恐れずに記してみます。

1.例会初のパソコンを使っての報告でした!
ドストエーフスキイの会がなんとなく守り続けてきた伝統的報告スタイルがあっさり覆されました。スクリーン使用の都合で席の向きが普段の逆になったとたん、不思議なことに会場の雰囲気がいつものローカル風からアカデミックな学会ムードへと変貌していました。穴見先生、パソコンをご持参いただきありがとうございました。

2.ドストエフスキーを読む医師にめぐり会えました!
しかもてんかんの専門医、精神科医、ロシア語もできる、これだけでも出来すぎなのにその上、若々しくてかっこよくて話術も巧みなんてずるい...

3.留学先がなんとマサチューセッツ総合病院(MGH)!
聞いたところによればMGHってすごい病院のようです。ハーバードの関連病院の中では最も歴史が古く、規模は最大。診断・治療・研究3拍子そろったアメリカのトップクラスの病院ですって。

4.脳の機能を測定するFunctional MRIの衝撃!
この新兵器を脳波と併せて使うことにより、てんかん発作の時間経過に加え、発作発生個所が特定できるとか。日本での研究最前線のお一人が穴見先生です。この機械の誕生・開発に貢献した多くのてんかん患者さんたちに感謝。今後は、より広い脳のはたらきへと応用が広がり、やがて脳と心の関係や意識の場所なども解明されるようになるのでしょうか。興味は尽きません。 

5.「ドストエフスキーの発作なんてたいしたことない、現在なら簡単に治療できた」
こうあっさり明言されてはあの世のドスト氏も苦笑するしかないでしょう。ドスト氏にはお気の毒ですが、後世のためには治療できなくて幸いであったと言わざるを得ません。だって、ムイシュキン、キリーロフ、スメルジャコフがいないドストエフスキーなんて...

6.「ドストエフスキーの恍惚前兆も数あるてんかん発作の中の一つにすぎない。しかも非常に稀である」
てんかんの神秘に心惹かれていたドスト信者にとっては少々そっけなく聞こえたかもしれません。何時の日か、穴見先生が恍惚前兆を持つ患者さんに遭遇されたら、その時は再び例会で報告することをお約束してください。その際、その発作個所が臨死体験の起こる場所と同一かどうかFunctional MRIの画像で確認してくださいませんか。前から気になっていることなので。

7.脳と心の両方から診る。
穴見先生は@脳を研究する科学者 A患者さんの診療にあたる精神科医 B社会復帰病棟医長という3足のわらじを履いておられます。いずれ劣らぬ激務を一手にひき受けておられる理由をドスト信者的我田引水で解釈するとしたら、「脳の研究だけでは人間の謎にはせまれない」ということでしょうか。さすがドストエフスキー体験者は違う!

8.ドストエフスキーはてんかんではなかった?!
会の代表木下先生が最後に爆弾質問。2001年に発表されたロシアの研究者(木下先生の知人)の新説によれば、ドストエフスキーの発作は高血圧に起因する精神障害であって、てんかんではなかったとのこと。当日、急用のため二次会への参加は見送られたため、残念ながらこの新説に対する穴見先生のご意見をお聞きすることはできませんでした。またのご参加をお待ちしています。